多くの中小企業は、非上場であり、かつ株式譲渡について取締役会の承認を要する旨を定款に設けています。
中小企業が新株を発行する場面はそう多くありませんが、今後はそういうケースは増えてくるものと思われます。
提携企業との間で相互に出資する場面、大手企業の傘下に入るにあたり出資を受ける場面などです。
今の役員や幹部候補生に対して新株を発行することもあります。
会社法との関係では、新株の発行価額が「特に有利な発行価額」にあたるかどうかが問題となります。
仮に、「特に有利な発行価額」に当たった場合、株主総会で理由を説明する必要があります。
この手続きを経ないで発行してしまうと、後日、株主代表訴訟を受けて、取締役らが賠償責任を負う危険があります。
ところが、非上場会社の場合、市場価格といった明確な発行価額がありません。
以前から、簿価純資産法、時価純資産法、配当還元法、収益還元法、DCF法、類似会社比準法など、多くの方法があります。
これらの計算方法を組み合わせる考え方もあります。
しかも、困ったことに、配当還元法では200円、純資産価額法では2,000円、類似会社比準法では1,800円といったように、計算結果がバラバラになることもあります。
この問題について、最高裁が1つの方向性を示しました。
最高裁平成27年2月19日判決です(旧商法時代の条文が適用されます)。
カツラの製造販売で有名なアートネーチャーが上場する前に役員らに対して発行した新株をめぐる裁判です。
この事件では、事前に依頼を受けた公認会計士が作成した株価算定書では、諸々の事情から配当還元法によるとされ、1株1,500円と算定されていました。
実際に会社は1株1,500円で新株を発行しました。
これに対して、株主代表訴訟を提起した株主は、DCF法からすれば1株7000円は下らないと主張しました。
最高裁は、次のように述べて、会社の判断を尊重しました。
「・・・株価の算定に関する上記のような状況に鑑みると、取締役会が、新株発行当時、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額を決定していたにもかかわらず、裁判所が、事後的に、他の評価手法を用いたり、異なる予測値等を採用したりするなどして、改めて株価の算定を行った上、その算定結果と現実の発行価額とを比較して『特に有利な発行価額』に当たるか否かを判断するのは、取締役らの予測可能性を害することともなり、相当ではないというべきである。」
「したがって、非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り、『特に有利なる発行価額』には当たらないと解するのが相当である。」
今後は、会社側の判断が認められやすくなると思いますが、あくまで「客観的資料に基づく一応合理的な算定」であることが前提です。
税理士さんに「配当還元方式でOK」との結論ありきの鑑定書を作ってもらうだけでは、ひっくり返されるリスクがあります。